大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 平成7年(わ)1068号 判決

裁判所書記官

渡邉薫

被告人

法人名

有限会社丸光産商

本店所在地

愛知県瀬戸市原山町一〇六番地

代表者氏名

金光永基こと金永基

代表者住居

愛知県瀬戸市原山町一〇六番地 水無瀬ハイツ二階

被告人

氏名

金光永基こと金永基

年齢

一九三四年三月一九日生

国籍

韓国

住居

愛知県瀬戸市原山町一〇六番地 水無瀬ハイツ二階

職業

会社役員

検察官

北野彰

弁護人

(私選)石原金三(主任)、石原真二、杦田勝彦

主文

被告人有限会社丸光産商を罰金二〇〇〇万円に、被告人金永基を懲役一年六月に処する。

被告人金永基に対し、この裁判確定の日から三年間刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人有限会社丸光産商は、愛知県瀬戸市原山町一〇六番地に本店を置き、砂利採取販売等を行う資本金七〇〇万円(ただし、平成五年三月一五日までは、五〇〇万円)の有限会社であり、被告人金光永基こと金永基は、同社の代表取締役として同社の業務全般を統括する者であるが、

第一  被告人金は、確定申告を控えた平成二年四月初旬ごろ、被告人の妻で、取締役として同社の経理を担当する金光節子こと李節子から、同年度は、同社の売上が伸び、相当の税額に上りそうだなどと報告を受けたため、同社の業務に関して、架空の仕入れを計上し、製造原価を水増しすることにより、所得の一部を秘匿し、法人税を免れようと考えた。そこで、右李節子と共謀の上、同女に架空の請求書、領収書を入手させて、架空の経費を計上し、所得金額を圧縮した上、確定申告書提出期限である同年七月三一日、愛知県瀬戸市熊野町七六番地の一所在の同社の所轄税務署である尾張瀬戸税務署において、同税務署長に対し、平成元年六月一日から同二年五月三一日までの事業年度における同社の実際の所得金額が六四二一万一一五〇円であったのに、右事業年度の所得金額が三一一二万二七七一円であるとして、これに対する法人税額が一一三九万八〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出した。その結果、同社の右事業年度における正規の法人税額二四六三万四四〇〇円と右申告税額との差額一三二三万五六〇〇円の法人税を免れた。

第二  被告人金は、前記李節子と共謀の上、前年同様、同社の法人税を免れようと考え、前同様に架空経費を計上し、あるいは、収入の一部を除外して所得金額を圧縮し、確定申告書提出期限の平成三年七月三一日、所轄税務署である前記尾張瀬戸税務署において、同税務署長に対し、平成二年六月一日から同三年五月三一日までの事業年度における同社の実際の所得金額が二億七八六九万九四三四円であったにもかかわらず、右事業年度の所得金額が一億四八六一万九六三〇円であるとして、これに対する法人税額が五三九八万一四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出した。その結果、同社の右事業年度における正規の法人税額一億〇二七六万一四〇〇円と右申告税額との差額四八七八万円の法人税を免れた。

第三  被告人金は、前記李節子と共謀の上、前同様、同社の法人税を免れようと考え、前同様の方法により、確定申告書提出期限内の平成四年七月三〇日、所轄の前記尾張瀬戸税務署において、同税務署長に対し、平成三年六月一日から同四年五月三一日までの事業年度における同社の実際の所得金額が一億六一〇四万二九七九円であったのに、右事業年度の所得金額が九八五七万五二五三円であるとして、これに対する法人税額が三〇七五万五九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出した。その結果、同社の右事業年度における正規の法人税額五四一八万一〇〇〇円と右申告税額との差額二三四二万五一〇〇円の法人税を免れた。

(証拠)

括弧内は、検察官請求証拠番号を示す。

判示全事実について

一  被告人金の

1  公判供述

2  検察官調書(乙1ないし3、6)

一  金光節子こと李節子(甲17ないし34)、金光公明こと金公明(同25)、古味幸美こと金幸美(同26)、鈴村慶久(同27、28)、新川重則こと朴仁秀(同29)、松井智明(同30)、宇佐美信子(同31、32)、大津和生(同33)及び菊田英夫(同34)の検察官調書

一  登記簿謄本(乙7)

一  査察官調査書(甲7ないし15)

判示第一事実について

一  証明書(甲1)

一  脱税額計算書(甲4)

判示第二事実について

一  証明書(甲2)

一  脱税額計算書(甲5)

判示第三事実について

一  証明書(甲3)

一  脱税額計算書(甲6)

(法令の適用)

罰条

第一及び第三の各事実につき

いずれも法人税法一五九条一項

被告人金につき、いずれも平成七年法律第九一号による改正前刑法六〇条

被告人会社につき、いずれもさらに、法人税法一六四条一項、一五九条二項

刑種の選択

被告人金につき、いずれも懲役刑を選択

併合罪加重

刑法四五条前段

被告人会社につき、刑法四八条二項

被告人金につき、刑法四七条本文、一〇条(犯情の重い第二の罪の刑に加重)

刑の執行猶予

被告人金につき、刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、被告人会社の代表取締役をする被告人金が、被告会社の三期分の法人税の一部を免れようと不実の申告を行い、合計八五〇〇万円余りの税金を不正に免れたという事案である。

被告人金は、本件犯行動機につき、せっかく上げた利益を税金に取られるのが馬鹿らしいとの思いや、景気が良いときに資産を蓄積し、不景気に備えたいとの思いであった旨供述する。このように思う気持ち自体は理解できないものではないが、所得に応じた税の徴収は、国家社会の維持に不可欠なことであり、それを免れようと考えること自体身勝手なことであるし、被告会社の利益を図ることは、ひいては、同社の実質的なオーナーである被告人やその家族の利益を図ることになるのであり、個人的利益を図ろうとしたものであるから、同情の余地に乏しい。

また、その犯行態様も、会社の経理を担当する妻に電話帳などで、原石の納入業者などを調べさせ、これら業者の架空の領収書を作成させるなどして、架空仕入れを計上し、その支払いのためと称して振り出した小切手を密かに換金して仮名預金等の形で蓄積する等していたものであり、右業者等にも迷惑を及ぼし兼ねない悪質なものである。

そして、逋脱した金額もかなり大きい。

そうすると、被告人の罪責は軽いとは言えない。

しかし、被告人会社は、すでに修正申告をし、本税、延滞税及び重加算税を完納し、被告人金も、現在では本件犯行を素直に認める等反省の様子が顕著であること、会社利益を地域のために寄付するなど、それなりに社会的貢献をしていること等の被告会社及び被告人金に個別あるいは共通の有利な事情も認められる。

そこで、以上の事情を総合考慮して、主文掲記の刑に処するのが相当であると判断し、被告人金の刑の執行を猶予することにした。

(求刑 被告人有限会社丸光産商に対し、罰金二五〇〇万円 被告人金永基に対し、懲役一年六月)

(裁判官 和田真)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例